誰か 僕を呼ぶ声がする
深い夜の 海の底から
目を 開ければ窓の外には
のぞくように 傾いた月
「歌姫」
まるで月光がさざ波のように押し寄せてきて
いっぺんに幻想の世界に引きずりこまれていくようです。
[DVD] 中島みゆき/歌姫 LIVE in L.A.
アルバム『寒水魚』
最初の「悪女」で既に月のイメージが歌われていることに気付きます。
あのあまりにも有名なリフレイン
「悪女になるなら 月夜はおよしよ/素直になりすぎる」
『寒水魚』でもう一つ「月」が歌われているのは「家出」
リフレインの一節です。
夜は浅く
逃げる者には
足跡だらけの 月あかり
比べることが悲しいものも
この世にあるよと 月あかり
「悪女」とは逆に「月あかり」の魔術に従うままに家を出た「私」が
「あなたがいればすべてだけれど/それでも 私 ふりかえる」と
「足跡」を見詰めています。
月の魔術は「私」の本心を映し出す鏡の役割を果しているようです。
中島みゆき最新歌集 1987~2003 (朝日文庫)
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「砂の船」のリフレインは次のように歌われます。
古い熱い夢の数だけ
いま 誰もいない夜の海を
砂の船がゆく
「私」であって私でない
あるいは「あなた」でも「私」でもあるような「他者としての自己」。
そして、そのような新しい「自己」を生み出したものこそが
「砂の船」に描かれる「傾いた月」の魔術的エネルギー。
中島みゆきさんの詩には他にも「黄色い犬」
「シニカル・ムーン」
「月の赤ん坊」といった月の名作があります。
(これに「砂の船」を加えて「月の四部作」と呼びたいところです)があります。
上記した歌詞と添文は
中心主題に「月」のイメージを置いて
アルバム『寒水魚』を一貫した一冊の詩集のように読むという試みと
それに対して返答されている『月光論』
(『河南文學』第4号(大阪藝術大学文藝学科研究室、1994年5月)より抜粋。
なかなか興味深く拝読させて頂きました。
山田兼士の研究室
中島みゆき / お月さま欲しい
I want the moon
中島 みゆき オフィシャルサイト